70歳雇用がもたらす日本のミドルシニアのこれから
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政府は70歳まで働く機会の確保を企業努力として義務化する、という改正高年齢者雇用安定法などの関連法を2020年3月31日参院本会議で可決し、成立させました。
これには、人口減少による人手不足や年金の支払いに対応できるように、社会保障の担い手を厚くしていかなければならない、といった背景があります。
労働市場の制度改革がおざなりなままで、2021年度からの労働市場の規制強化が、追加されたのです。
70歳雇用について考えていきましょう。
70歳雇用とは?
政府は、なぜここで70歳雇用を発表したのでしょうか?
最大の理由は少子高齢化による労働力不足が挙げられます。
2020年4月20日の総務省統計局の人口推計では<総人口> 1億2596万人で,前年同月に比べ減少し、マイナス30万人(マイナス0,24%)となっています。
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202004.pdf
下記の表は、2008年~2019年10月までの12年間の人口状況です。
総務省統計局(2020年4月20日公表)の人口推計
もうひとつ理由があります。
そう、社会保障制度の持続性を維持するためです。
雇用環境や貧困・格差の問題が多くある中で、社会保障制度を守り、時代の要請に合わせる必要があります。
社会保障給付費の総額は、さらに増加が見込まれていますが、その財源は、保険料と多額の「公費」であり、税収は5割程度、4割強が国債で賄われています。
このままでは次の世代に莫大な借金を背負わせることになるため、社会保障と税の一体改革が、必要とされているのです。
70歳定年時代がやってくる!?
「未来投資会議」とは、内閣総理大臣が議長であり、2016年9月に始まったもので、国や地方の成長戦略と構造改革の中心と言える会議です。
人生100年とされる現代社会で現状の制度を見直し、「全世代型社会保障」のための雇用改革について話し合いがなされました。
<高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用の促進>
として内閣官房日本経済再生総合事務局が提示していて
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai27/siryou1.pdf
の中の資料1:「70歳までの就業機会確保」について述べています。
~未来投資会議(第27回) 配布資料より添付~
また、「高年齢者雇用の現状について」の参考資料から詳細が見て取れます。
70歳雇用の現状
70歳雇用を推進する背景に、少子高齢化による労働力不足や、公的年金の支給開始年齢の引き上げがあることを述べましたが、8割の企業は、現状で「継続雇用制度」を導入しています。
「継続雇用制度」には、再雇用制度と勤務延長制度があります。
年功序列型賃金の場合は、家族も年数の経過と共に生活費が増加していくのを補償があることで労働者は賄えることで助かったのですが、多くの企業が、まずは雇用契約を終了して、新規に労働者として再雇用することを選択しています。
つまり、例外こそあれ、「年功序列型賃金制度」のように、そのまま雇っているより一度契約終了後に雇用する方が人件費の負担が少なくて済む形態を選択しているということです。
70歳定年になった時のメリット
①定期的な収入を得られる期間が増える
自分が仕事をすることで得られる定期的な収入の期間が増えるので、家庭の生活費の面でも助かります。
さらには、何と言ってもまだまだ70歳は昔と違い元気なので、やる気や体力があれば、どんどん仕事をして収入を得られるのが理想です。
②生きがい・健康が維持できる
人とのコミュニケーションが維持できたり、あるいは増えること、身体を動かして生活するので、精神的にも肉体的にも健康的な生活が見込めるため、生きがいにもつながるでしょう。
また、するべきことがあるという充実感が得られます。
③社会参加を継続できる
社会に参画している実感が得られ、また、世の中に求められている、認められている存在であるという意識が働き、健康的な日々が過ごせます。
また、培ってきた自分の知識や経験を若い世代に引き継ぐことで役に立つことができます。
70歳定年になった時のメリット(企業側)
①継続的に労働力が維持することができる
人材の確保は非常に困難で金銭的にも多くの出費が掛かるところを、継続して労働してくれることで無駄なコストも発生せずに労働力が維持できます。
ですから、企業側にとっても安定した即戦力を維持することができるのでメリットが大きいです。
豊富な人脈や周囲との関係性は、若い人には持ちえない包容力ある人材と言えます。
②技術や経験を引き継ぐ期間が伸びる
知識ある経験豊富な人材なので、若い世代に技術や経験を継承してもらえる期間が延びることから、企業にとっても有難い貴重な存在となります。
さらに、企業は、政府が高齢者雇用について「高年齢者雇用安定法」で、下記3つのいずれかの措置を義務付けていることから生じる「65歳超雇用推進助成金」が得られます。
・65歳まで定年年齢を引き上げ
・希望者全員を対象とする、65歳までの「継続雇用制度」を導入
・定年制の廃止
・「65歳超雇用推進助成金」についてはこちら
https://www.mhlw.go.jp/content/000487981.pdf
70歳定年になった時のデメリット
①年金の減額がされる可能性があり得る
定年が70歳まで引き上げになると、年金制度が改正される可能性もあり年金の減額もあり得ます。
ですが、あくまでも2020年5月段階においての話ではありますが、年金カットの目安はだいたい「月収36万円以上」であり、一般的なサラリーマンには影響が少ないと考える意見が多いです。
老齢厚生年金の平均的な受給額は、月10万円程度と言われていて、65歳以降の在職老齢年金において、厚生年金のカットされる基準が46万円以上・・・つまり、65歳を過ぎて月36万以上の月収を得られる人は限られているからです。
ですが、いつどうなるかわからないので、今後もしっかり情報に耳を傾けていきましょう。
また、国の年金制度は、破綻しないとしても安心はできない状況にあるのを理解しておきましょう。
②労働を継続できるか健康面での不安
健康面でいつまでしっかり働けるか不安要素があったり、もし働ける状態なのに仕事をしない場合、何らかの負い目となって、それが健康を害することに繋がる可能性もあります。
また企業側から見ると新卒採用が減るわけですから、若者にとっては失業率が増えるという問題も出てくるでしょう。
③長い間働き続けるためのメンタル面での不安
自分は、長く働かなければならないというメンタル面での不安やプレッシャー、さらに若い世代との考え方他で意識のズレを感じることがあるかもしれません。
また、仕事を続けることで本来の生きがいを見つけられず、余暇を楽しむというイメージから遠のくでしょう。
さらに、企業側は、最新技術を取り入れていく場合において、高齢者はついていけなかったり、労働者内における新風、新陳代謝に欠けるなどの不安点が残ることも考えられます。
今後の課題とは?
日本は2030年問題を抱えています。
2007年以降超高齢化社会となった日本は、ますます高齢化に拍車をかけ、2030年には人口の減少だけではなく3人に1人が65歳以上の高齢者となります。
労働人口だけでなくGDP(国内総生産)も大きく減少し、経済成長は鈍化します。
年金の受給年代の増加により、受給開始年齢の引き上げや、支給額の減額も想定内の出来事になるはずです。
高齢者の貧困が深刻化し、生活における精神的、肉体的ストレスが多くなることが考えられ、医療従事者不足も深刻です。
若者の地域離れから過疎化する地域と都市部との経済格差は広がり、日本のあらゆる地方の活気が衰退していくことでもたらす社会不安も見逃せません。
今後は、段階的に定年を引き上げつつ、賃金の水準も緩やかな流れで見直しされ、調整され続けていくことになるでしょう。
まとめ
結婚しない人が増加していることから、出生率も減少していることがそもそもの発端にあります。
ですが、私たち一人ひとりがいつまでも元気で明るく働き続けられることが、社会にとっても自分自身にとっても家族にとっても最も重要なことです。
70歳が定年ではなく、それ以上になる可能性を秘めた今、健康管理に留意して社会とコミュニケーションをとりながら、満足感や充実感を得られる生活を過ごしていきたいものです。